昭和35〜36年、フランク永井さんの「君恋し」や佐川満男(佐川ミツオ)さんの「無情の夢」など、昭和初期〜10年頃の曲をアレンジしたカヴァーバージョンが相次いでヒットしました。いわゆる“リバイバル・ブーム”です。
「雨に咲く花」もこの時期のリバイバル・ヒットのひとつ。もともと昭和10年に関種子さんが歌ったもの哀しい和製タンゴの曲を、井上ひろしさんは哀愁と力強さをあわせもつロッカバラード調のアレンジで歌っています。
作曲した池田不二男さんは「花言葉の唄」、作詞の高橋掬太郎さんは「酒は涙か溜息か」「古城」などの名曲を残しています。
どちらも「あきらめました」「忘れられない」というままならない心情を綴りながら、オリジナルの関種子さんの歌唱はどこか諦観に向かっているように感じられますが、一方で井上ひろしさんバージョンには「やはりあきらめたくない」という激情がまさっているようです。
井上ひろしさんの2番「雨にうたれて泣いている」と3番「空に涙のセレナーデ」の部分は歌詞を間違えて歌ったとのことで、正しくは「〜咲いている」「窓に涙の〜」で(下記動画でも「泣いている」「窓に」と歌っています)、井上ひろしさんも後々の録音では正しい歌詞で歌い直しているそうです。
奇しくもこの二箇所はこの歌の抒情性の肝となる表現です。「雨にうたれて咲いている」はそのままタイトルにつながっている部分です。それだけに、井上ひろしさんバージョンの“歌詞まちがい”は、いきおいあまった感情の強さゆえに、比喩を無視して歌ってしまった結果のように思え、それはそれで歌心のなせる業のようでたいへん興味深く感じられるのです。