作曲した八洲秀章氏は「さくら貝の歌」「あざみの歌」「山のけむり」などの美しい名曲抒情歌の作者として知られます。
その八洲氏の初期作品と言えるこの曲は、一聴すると戦前流行歌風のアップテンポの曲調ですが、流れる旋律はたしかに八洲抒情歌のそれです。この曲をたとえば8分の6拍子のゆったりとした編曲でイメージしてみると、そこには「あざみの歌」の原型とも感じられる哀愁ただよう一曲が浮かび上がります。
歌詞は作詞者の関沢潤一郎氏が、信濃路を旅した折、上高地で見かけた女性の悲しげな横顔から浮かんだものだといいます。
関沢潤一郎氏は現在の茨城県潮来市出身の詩人。潮来の豊かな水と自然への深い想いから言葉を紡ぐ、郷土に根ざした水郷詩人は、昭和7年に処女詩集『潮来』、昭和10年に『潮来出島』を発表。その頃から“第二の雨情”として注目された存在でした。
戦後は民謡・歌謡の詩作のほか、釣りに関する執筆でも活躍。釣りの世界ではフナ釣りの権威で、そちらでは「流行歌の作詞もしていた」という見方になるようです。
関沢潤一郎氏については流行歌史的な情報が少ない中、下記の茨城女子短期大学の学長(当時)小野孝尚氏の『水郷詩人・関澤潤一郎論』がたいへん興味深く、参考になりました。
【参考文献】
茨城女子短期大学紀要 大成学園創立100周年記念号 第37集(2010年)
『水郷詩人・関澤潤一郎論』小野孝尚
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