愛しい人の面影をしのんで想い出の街をさまよう——。それは流行歌の主要なモチーフのひとつだといえるでしょう。
たとえば、昭和15年に伊藤久男さんが歌った「高原の旅愁」(作詞:関沢潤一郎、作曲:鈴木義章)。また、たとえば昭和23年、近江俊郎さんの「湯の町エレジー」(作詞:野村俊夫、作曲:古賀政男)。
長崎を舞台にした渡辺はま子さんの「雨のオランダ坂」(昭和22年)では、こちらは女性の視点で「泣いて別れたマドロスさん」の面影を追っています。
雨の降る日の日暮れの頃に
思い出します オランダ坂を
遠いあの日を 忘れもせずに
濡れて歩けば 出船の汽笛(作詞:菊田一夫、作曲:古関裕而)
多くの旅情歌を生んだ港町・長崎。昭和20年代には小畑実さんの「長崎のザボン売り」をはじめ多くの長崎ソングが発売されました。その後、昭和30年代初頭のロカビリーブームや30年代中盤からの青春歌謡の隆盛など、レコード会社の目線が若者に向かう傾向の中、「長崎の女」は久々の長崎ソングのヒット作となりました。
名作詞家・石本美由起氏門下のたなかゆきを氏による、長崎の名所・風物を織り込みつつ、誰もが自分の物語を投影できるような余白のある歌詞が、歌心に満ちたソングライター・林伊佐緒氏による流麗かつ軽快な三拍子のメロディーに乗り、春日八郎さんの味わい深い声で聴くものの心に沁み入る名曲です。
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